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過去15年の阪神のユニフォーム変遷を振り返ると共に、その試行錯誤の労をねぎらう特集

以前、阪神タイガースの2022年新ユニフォームについての記事を書いたのですが、その執筆を進める中で阪神の近年のユニフォームの変遷をまとめる記事を書こうと思いまして、今回はそれです。

と言っても、単に「何年にどこが変わって...」っていうのを機械的にまとめるのではありません。記事にも書いているのですが、私は2022年新ユニフォームを「到達点」と表現してその完成度を称えています。ですので、ここ十余年のユニフォームの変遷はさながら「到達点」を目指す試行錯誤の道のりそのもの。

単にダサいダサいと連呼するのではなく(そう言ってる時点でダサいと思っている事は確定な訳ですが)、その試行錯誤の労をねぎらう形で振り返りたいと思ったのです。

十数年、十余年などと言ってきましたが、具体的には2007年の大幅リニューアル以降の時代を指します。なので正確には15年。15年間の阪神のユニフォーム変遷の歴史を主観・私見たっぷりで振り返ります。

⚠︎執筆後追記⚠︎
結局、7〜8割方はダサいダサいと連呼する悪口大会になってしまいました。今回扱っているユニフォームの中に愛して止まないというくらい好きなモデルがある方につきましては、お気を悪くさせてしまうかもしれませんのでご承知置きの上ご覧ください。
ただし、これはあくまで私自身の感想であり、私と異なる感想をお持ちになる方々の人格や感性を否定・批判・攻撃するものでは決してございませんことをここに明記しておきたく存じます。

混沌前夜

まずは、大幅リニューアルされる直前のお話から。

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2001年に導入され、2003年・2005年と2度のリーグ優勝を果たし2006年まで使用された、私的ランキングでは堂々1位、歴代最高のユニフォーム。一切の無駄を省いたミニマルなホームに対し、パイレーツ型の胸ロゴとラケットラインの遊び心が心憎いビジター。この上ない極上のバランス

2022年新ユニが「歴代最高“クラス”の傑作」に止まらざるを得ないのはこのユニフォームが「歴代最高の大傑作」だから。私自身、別に黄色ライン反対派って訳ではないですが、やっぱり何もない方がカッコいいです。個人的には、このユニフォームをヤンキースみたいに何十年と使い続けて欲しかったのが正直なところ。

因みに、ビジター用の「HANSHIN」ロゴの書体が変更されたのは、1961年にチーム名を改称するに伴い「OSAKA」を「HANSHIN」に置き換えて以降初めての出来事。次項を「縦縞、『現代化』へ」と題していますが、実はこの時点で「現代化」は始まっていたと言えるのかもしれません。

2007 - 2011年:縦縞、「現代化」へ

そんな完璧なユニフォームでしたが、2007年、当時の岡田彰布監督が就任4年目にしてユニフォームの大幅変更に着手。自身が現役時代に着用していた黄色ライン入りのユニフォームを復活させたのです。

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何と言っても最大の特徴は、26年ぶりに採用された黄色のラインでも、60年代風の背番号のフォントでもなく、脇腹部分に配された黒の切り返しデザイン。切り返しとは、いわば色や素材を変えて切り出したパーツ同士を組み合わせてデザインを表現する方法のことで、ユニフォームに限らず一般的な服飾の手法でもあります。

各球団のユニフォームの歴史を見てみると、ちょうど2000年代から2010年代初頭までの間、切り返しデザインを採用する球団が急増します(画像は上から巨人2006-08年ビジター、横浜2007-08年交流戦、西武2004-08年ホーム、ヤクルト2009-12年ビジター)。

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引用:週刊ベースボール2020年5月11日号

現在でもDeNAや日本ハム、西武(ビジターのみ)が採用している他、企画ユニフォームなどで各球団が取り入れることの多い定番スタイルですが、この時期は本当にどの球団も切り返しが入っていました(挙げた例はほんの一部)。阪神もこの流れに乗る形で切り返しを採用することで、縦縞のユニフォームを「現代的」に見せようと試みたのでしょう(カッコ付きなのがミソ)。その成果や、いかに。

結論から言うと、個人的にはそこまで嫌いではないです。特にビジターに関してはむしろ好きと言ってもいいくらいですね。前モデルで言うところのラケットラインの延長と思えばアクセントとして効いている感じがしますし。

ただ、やはり(特にホームに関しては)無いなら無い方がいいと言わざるを得ないのが現状。ただ立ってる分には目立たないのでいいですが、やっぱり意外と面積の広い黒い帯が縦縞と喧嘩しています。端的に言えばゴチャゴチャしてる。「現代化」という点で見ても、そんなに上手くはないかな。

5点満点で言えば、3.5点。因みに、好き嫌い分かれる背番号のフォントですが、個人的にはかなり好きです。「Tigers」ロゴと雰囲気が合ってるので。3.5点中、1.2点くらいはこのフォントに対する評価が占めてます。

2012 - 2014年:「現代化」の暴走

岡田政権末期→真弓政権と、暗いんだか明るいんだかよく分からない時期を乗り越え、和田政権に移行すると同時にユニフォームが変更されます。因みにサプライヤーがデサントからミズノへ変更されました。

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引用:ユニフォーム|チームデータ|阪神タイガース公式サイト

結構人気あるんですよね、コレ。日本シリーズ進出、藤浪入団、外国人全員タイトルなど明るめな話題が多かったことも関係しているのでしょうか。テーマは「伝統と革新の融合」とのこと。

でもすみません。どうしても好きになれません。確かにこの時期の阪神は結構いい思い出が多くて、ファンやってて楽しかったです。ただ、そういう思い出補正を加味しても、好きじゃないです。大まかな「好きじゃないポイント」は以下の通り。

・切り返しが増えた(しかも変なトコに)
前項でも言いましたが、そもそも縦縞と切り返しはあまり相性がよくないと思っています。その切り返しが増える。それも、よりによってめっちゃ目立つ肩口に。ハンガーかよ。
以下、色々言いますが、はっきり言ってこの切り返しさえなければまだ許せる範疇にある事柄ばかりです。つまりは、切り返しが悪いよ、切り返しが

・ビジターがセパレートタイプに
ダメやんか、そんなことしたら。
って思いました。ビジターは上下グレー。それが基本。ただ、切り返しさえなかったらまだ許せたと思います。デザインそのものが破綻しているとかって訳ではないので。胸ロゴも2001-06式を思わせるような雰囲気ですよね。まあ、○ッテに似てるっていうのはご愛嬌。

・縦縞が太くなった
阪神の縦縞は、元々ピンストライプだったものが歴史の中でだんだんと太く濃くなり、ロッテやヤンキースのような従来のピンストライプとは一線を画す「縦縞」としてのデザイン性を確立していました。
そんな中で2012年、目に見えて太くなりました。「力強さ」を表現したらしく、確かに目に入ってくる情報量が増したおかげで何となく強くなった気もしますが...
いや、やりすぎですね。切り返しの面積が増えてただでさえ色味が強くなってるのに、ベースの色まで濃くしてどうするの、っていう。力強さというよりゴチャゴチャ感。ヤンキースのピンストライプとか見てると、どうしてもこのユニフォームはどっちかというとパチモン感が拭えないような気がします。

・黄色の配色バランスが変
これは簡単な話で、黄色入れるならもっとはっきり入れるべきという話。ただ、じゃあ今まで通りロゴや文字の縁取りやツバを黄色にすればいいのかってことでもない。そんなことしたらますますぐちゃぐちゃになってしまう。
だから、このデザインパターンを優先するならいっそ黄色は無くしていいし、黄色を優先するならこのデザインパターンはナシ。要するに、切り返しが悪い

5点満点で2点。労をねぎらうつもりが結局悪口大会になってしまいました。でも、これはやっぱり暴走という他ないでしょう。「現代化」(公式の言葉を借りるなら「革新」)の意味を完全に見誤った結果ではないでしょうか。

あえてどこか褒めるとすれば、ビジターの黒ジャージにうっすらと刻まれたシャドーストライプですかね。これは結構いいと思います。

2015 - 2017年:見失った「原点」

2015年、球団創設80周年を機にユニフォームも「原点」へ回帰。

前々から疑問だったんですけど、「80周年」ってそんなに特別な数字なんですか?この時やたら球団の歴史を振り返る系の企画やってましたよね?70周年の時も75周年の時も85周年の時もそういうの特になかったのに。何かご存知の方いらっしゃいますでしょうか。まあそれはいいとして。

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引用:ユニフォームデザインを一新

「現代化」は諦めたのか、ここへきて一気にクラシックなスタイルが復活。切り返しも黄色のラインも一切なくなり、シンプルなモノトーンスタイルに。ビジターも、上下グレーが復活した上に久しぶりに縦縞が加わりました。

第一印象では「結構いい」と思いました。2010年代も半ばに差し掛かり、徐々にいわゆる「ネオ・クラシック」の潮流が再び本格化し始めていたNPBユニフォーム界。そんな流れに乗るべく、古めかしいスタイルを復活させるという選択をしてくれたことを喜ばしく感じたのです。

しかし、やはり気になるのはラケットライン。ミズノのデザイン担当さんはどうしても何かを付け加えないと気が済まない性分なのでしょうか。正直、最初は「やっとシンプルになった」という気持ちが大きかったのでさほどにはならなかったのですが、キャンプ、オープン戦とじっくり目にする機会が増えるに従って気になり始め、ついには、ラケットラインが邪魔に感じるように。

これも以前触れましたが、縦縞(細めの縦線)にラケットライン(細めの縦線)を重ねるのはやっぱり感覚的におかしいのです。襟首回りは縦縞とラインとの交点が連なってゴチャゴチャしてますし(画像参照)。初めの頃は「結構いい」と思っていたにも関わらず、こんな些細なことに気になり始めたが最後、途端に微妙に感じるようになったのでした。

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因みに、この「縦縞+ラケットライン」の謎について、とっても面白い考察をお見かけしたので、ご紹介します(まあ、このnote見てる方は大抵TJさんのnoteもご覧になってるとは思いますが)。

しかも、ビジターユニフォームに関してはたった1年で変更されることになります。金本新監督の意向だったとか何とか。

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引用:新ビジターユニフォーム完成!

また何か足してきた... 縦縞消したと思ったら黒袖足してきた...
これ、袖も普通にグレーだったら何の違和感もない「普通の阪神のビジターユニ」ですよ。どうしても何かを付け加えないと気が済まない性分のミズノさん。しかも、またしてもラケットラインと絶妙に食い合わせが良くない(画像参照)。何で普通に全グレーじゃダメなんでしょう。

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トータルで見て、5点満点中3.9点。ラケットラインがなければ4点、1年でビジター変えてなかったら4.5点でした。やはり「ネオ・クラシック」の潮流にきちんと目を向けてくれたことは評価したいと思います。ただ、余計なものを付け加えたがる癖は相変わらず。はっきり言って原点を見失ってる感は否めませんでした。

2018 - 2021年:「足し算」に次ぐ「足し算」

2018年の変更については、どういう脈絡があってのものだったのか、正直イマイチよくわかっていません。因みに、この変更からファン感謝デーにてお披露目するスタイルになりました(今まではキャンプイン前日、つまり1月31日でした)。

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引用:2018年新ユニフォーム発表

ホームは黄色を足しただけのマイナーチェンジなので、基本は前モデルと言うことは同じです。ラケットライン要らない

ビジターは普通に好きです。上下グレーじゃないという点はこの際置いておくとしても、セパレートタイプのユニフォームとしては結構スッキリ纏まっているんではないでしょうか。帽子が下手なことせず、黒一色に黄色のHTマークというのも新鮮でいいですよね。パイレーツのオルタネート的な雰囲気です。「現代的」っていう観点で言えば、このビジターユニフォームが1番完成度高いと思います。実際、このユニフォーム好きって言う人今でも結構多いですよね。

唯一文句つけるとしたら、黄色の文字を白で縁取るのってどうなんというあたり。輪郭がボヤけてしまってせっかくの黒と黄色のコントラストが映えないのではと思ってしまうのですが...

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写真はピッツバーグ・パイレーツのオルタネートユニ(前モデル)ですが、こんな感じだったらもっとスッキリしたんじゃないかなと思います。

ところが、このモデルに関してもビジターのみ一足早く変更されてしまいます。そして登場したのが、野球のユニフォームのあり方を根底から揺るがす(と私が1人で勝手に騒いでただけ)世紀のトンデモユニフォームでした。

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引用:2020年ビジター用ユニフォームのデザインを一新!

最初に見た時、冗談抜きで吐くかと思いました。本当に、こんな気色悪いユニフォームで試合するタイガースを見させられるのかと思うと吐き気が止まりませんでした。

2021年前半、私は阪神の快進撃をとても複雑な思いで見てました。阪神の優勝そのものはとても喜ばしいことですが、このユニフォームが「栄光のユニフォーム」として球史に記録されてしまうのが嫌で嫌で...
あまり大きな声では言えませんが、正直ここまでV逸に安堵したことはありませんでした。それと同時に、たかだかユニフォームが気に食わないからってだけで素直に応援できない自分の器の小ささにも嫌気が差しましたね。

とりあえず個人的な話はここまでとして、ユニフォーム研究・デザインの第一人者である綱島理友先生と大岩Larry正志さんが週べの対談企画でこんなことを仰っていました。

グラデは昇華プリントだから可能なデザイン。本来、野球のユニフォームのデザインは制約の中でムダなものを削りながら組み立てていくものなんだけど、プリントはなんでもできてしまうから足していくデザインになる。そこが違うと思う

デザインする側もフリーのキャンバスだと勘違いしている感じがします。そうではなく、ユニフォームなんだよ、と思います。

基本的に胸の球団ロゴと、背番号、名前の書体だけで勝負するべきところだと思うので、そのクオリティを上げることを突き詰めていったものがカッコいいと感じます。空いているスペースにいろいろ押し込めるのではなく

引用:綱島理友×大岩Larry正志 ユニフォーム対談「ユニフォームは真っ白なキャンバスではない」

この阪神のユニフォームの問題点をピンポイントで見事に言い表してると思います。実際、「吐き気」とかいう抽象的な言葉でしか表現できなかった私の違和感を、お二方に明確に言語化していただいたというイメージです。お二方とも、さすがです。私が後ろから余計な口を挟む必要もないくらい完璧なお言葉ですよね(因みに、週べのこの号は今でもバイブルとして繰り返し読み込んでます)。

トータルで言うと、5点満点中1.5点。ビジターの途中変更がなければ3.7点くらいつけてもよかったかもしれませんが、それくらいグラデビジターが酷かったということで。

ただ、こう考えてみると、今まで取り上げてきたユニフォームはほぼ全て、既存の縦縞ユニフォームに何かを「足していく」ことによってデザインされてるんですよね。ちょうど、空いているスペースにいろいろ押し込めるが如く。

「ユニフォームはフリーのキャンパスではない」。とても重たい言葉だと思います。

もう散々毒は吐き切ったので、最後くらいはちゃんと労をねぎらいたい

もう少しラフにサクッと振り返る感じで書こうと思っていたんですが、やっぱり積年の思いがただ漏れてしまい、結局22年新ユニ特集より文字数も多くなってしまいました。

前書きにもある通り、2022年新ユニフォームがある種「到達点」だとすれば、ここ十余年のユニフォームの変遷はさながら「到達点」を目指す試行錯誤の道のりそのものです。

何事も一発で完成に辿り着くなんてことはできない訳で、あーでもないこーでもないと試しては失敗して、試しては失敗しての繰り返しの果てに成功への道の一端が見えてくるものです。

阪神のユニフォームデザインに携わってきた方々だって、望んでかっこ悪いものを作ろうだなんてことは思っていなかったはずで、これが現時点で考えられる「カッコいい阪神のユニフォームだ!」と誇りを持って仕事をされてきたんだと思います。いくら感性が合わないとしても、そういう根本の部分まで否定することはしたくない。

そして、結果として2022年新ユニフォームという大傑作を届けてくださった訳ですから、そこに関してはきちんと感謝を伝えさせていただきたい。本当にありがとうございます。

それにしても15年は長すぎるし、そもそもユニフォーム変えすぎ。タイガースの歴史を見てみても、元々頻繁にユニフォームを変えるタイプの球団ではあるんですが、それにしたって変えすぎでしょう。特に、ビジターが大体2年おきくらいで変更されてるという、ここ最近の傾向は流石に異常では?

商売だからっていうのは分かりますが...

以上、過去15年の阪神のユニフォーム変遷を振り返ると共に、その試行錯誤の労をねぎらう特集でした。ありがとうございました。

これをきっかけに、プロ野球90年の歴史も振り返りました。こちらもよろしくお願いします。

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